家の材料は解体した家から貰い、道を改造しとエスカレート
して3年がかりの大工事になってしまった。
ついに家は完成した
カナダのナナイモで結婚式を挙げ 、力を合わせてあらたな人生へ。3年がかりの大改造が互いの絆を強めた
第1回 雪崩からの奇跡の生還
第2回 生い立ち
第3回 バンクーバー島の旅
第4回 合気道修行時代
第5回 由美子さんとの出会い
第6回 家の改造大作戦
第7回(最終回)家の完成そして二人の結婚
第7回(最終回) 目次
※番号をクリック→希望の項目に飛ぶ
家の前に見える白いものは解体した
家から貰い受けた太陽光パネル
しっかりと働いていて電気の大半を
まかなっている
1序:解体した家の材を貰う
ある日、家を解体している現場を,偶然由美子さんが通りかかった。トラックに詰め込み、ロープを掛け今まさに出発しようとしている。
(あっつ、色々使えそうな物がありそうだ)
写真下:手に入ったアルミサッシはサンルームに
アルミサッシは増築したサンルームに使えそうだ。トイレの便器、台所のシンクそれにソーラーシステムまで手に入った。 これで風呂や台所仕事に必要なお湯を充分にまかなえる。二人にとっては正に宝の山だった。
「明日の朝には全て取り壊してしまう」というのを聞いて、モーリスは暗くなるまで粘ってソケット類を取り外した。
鈴木さんからは不要になった洗面台とボイラーを貰った。予算を最低限に抑えたい二人にとって実にありがたいプレゼントだった。
2まだまだ苦労は続く
一日でも早く完成させたかったので、大半の時間を家の改築に費やした。 道場には時々顔を出す程度だが、合気道の練習も調子が悪く落ち込むことも多い。 モーリスは昔から膝に問題を抱えていて、その膝を悪化させてしまったせいだ。 床の下地材や仕上げのフローリングを貼る作業で、膝を長時間床についていたのが原因だった。 思わぬ苦労の種がカナダと日本の寸法の差だった。日本いまだに尺や間が多く、それにメートルが併用されている。 カナダはフィートとインチ。計算するときに混乱するし、うっかりすると勘違いしてカットしてしまう。
写真:屋根裏で作業するモーリス
由美子さんにしてみれば、(何でこんな事をするの・・・どうしてそこまでやらなくてはいけないの)と疑問に思う事も多い。 最初は丁寧に説明してくれていたモーリスも、そのうちだんだん面倒になり、説明する時間がもったいない、つべこべ言わずさっさとやれ、と言わんばかりの態度をとる時もある。
思うとおり作業が進まずいらいらする。虫の居所が悪いとついつい口喧嘩してしまう。そんな時にたまたま鈴木さんが様子を見に顔を出すと、ジョークをまじえて上手く仲裁してくれる。
そのうち顔をみせると、「今日は仲良くやってる?」というのが鈴木さん挨拶代わりになった。
3.家の完成そして引越し
1年が過ぎた。まだまだやることは残っているが、どうやら先が見えてきた。鈴木さんは、「まず引っ越して、住みながら続けたら」といってくれるが、モーリスは中途半端な状態で引っ越すのはいやだった。 家の仕上げ段階に入り、ペンキ塗りや壁紙貼りなどは主に由美子さんの仕事である。力はいらないが根気がいる。先の事は考えず、まず今やっているその壁の面だけに集中する。終わったらまた次の面へと。 一面が終わった、1/3 終わった。これで半分が終わった・・・際限がないように思えても辛抱強く続けていると、いつの間にか大仕事が終わっているのだった。 (やれば出来る)先が見えてきたこともあり、何とか完成まで持っていけそうだと由美子さんも確信を抱くようになってきた。
家は県道から山道に入り、300mほど登ったところにある。その道が雨の後はぬかるんで大変だった。
1キロと離れていないところに採石場があり、交渉すると「自分で運ぶのなら石はいくらでも無料で上げるよ」と言ってくれた。
スコップを振るい軽トラックに石を積み現場に運ぶ。トラックをすこしづつ動かしながら石を道路に撒いていく。
毎日5台分位づつ、延べ30台分くらいの砕石を運び敷き詰め、1週間かけて完成した。 重機を使うのなら簡単だったろうが、全て手作業、鍛え上げたモーリスの体力があればこそである。
2003年の2月、ついに家の改築が終わった。厳しい寒さの残る冬の最中だった。 長い時間かけた二人の共同作業の結晶である。そして念願の引越し。
住み始めてみると、家の一つ一つに汗と涙が染み付いているように由美子さんには思える。延々と地面を掘り進み、ハイドロ・ラムの配管をした最初の頃、水が出た時の驚きと飛び上がるような嬉しさ。 何度も失敗を繰り返しては辛抱強く束を入れ替えたモーリスの姿。
床下を這いずり回って竹を刈り払ったこと。喧嘩、仲直りそしてまた喧嘩。モーリスと上手くやっていけるのだろうかと思い悩んだ日々。
鈴木さんとその一家、稲垣さん。そして新しく知り合った人たち。皆本当に自分の息子や娘、あるいは兄弟のように暖かく見守り、応援してくれた。 この人達の励ましがなかったら、果たしてここまで来れたろうか。
今こうして自由に使っている水、ソーラーシステムの恩恵で暖まった風呂に入る時、増築して快適になった台所で食事を作る時、 その時々の苦労の数々が走馬灯のように脳裏をよぎり、ついつい感慨に耽ってしまう。
年月が過ぎて、二人にとって特別なこの時代を振り返るとき、きっとかけがいのない思い出として残ることだろう
。冬は雪に閉ざされる 庭の直ぐ背後に1000m近くの山が控える
4.ナナイモでの結婚式
8月16日、バンクーバー島のナナイモで晴れ晴れとした気持ちで結婚式を挙げた。快晴に恵まれた爽やかな日だった。
カルガリー州のレスブリッジから両親とケンとデイブの二人の弟そして多くの友人達が参加して皆暖かく二人の前途を祝福してくれた。
今年送ってきた年賀状には、結婚式での着物姿の由美子さん、羽織袴のモーリスが写っていた。 実に様になっている。それもそのはず、由美子さんは着物の着付けを教える資格を持っている。
5二人の強い絆
励ましあい、時にぶつかり合い、周囲の人々に助けられ、二人力を合わせ、ようやくここまで来れた。 改築が始まった頃のひ弱だった自分が一回りたくましくなったように由美子さんは思えた。これから先もまだまだ色々な事がありそうだが、モーリスと一緒にやっていけるという自信もついた。
家の改築というこの大仕事のお陰で、普通の夫婦ならば何年もかかるだろう強い絆を築くことが出来た。
写真:いろりは二人の気に入りの場所
由美子さんから届いたメールの一言一言に、1年3ヶ月という時間の中で味わった数々の想いが凝縮されているように思える。
*******************
「この家の改築作業は、モーリスと私の関係を強めるとてもいい機会をなりました。 あの1年3ヶ月は、二人の体力面、精神面・・いろいろな意味で挑戦でした。 (あの間にモーリスは一気にやつれて白髪が増えました)
二人の中には、あれを乗り越えたんだから、という思いがあります」
モーリスに白髪の話をしましたら、1本ずつ指でつまんで「これは由美子が・・月・・日に〜をした時。これは〜の時に出来た・・・」とまた例によって嫌味なジョークを言っていました。
あとで振り返った時に、あの年月が、そして今が輝いて見えるように、この先私達にもまだまだ困難が待ち受けている事と思いますが、彼と力を合わせて一生懸命生きて行きたいと思っています。
*********************************************