家の大改造

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モーリス 第6回 家の改造大作戦

無事ハイドロラムが作動し、一番大きな水の問題は
解決がついた。 これからが本格的な工事の始まり

第1回 雪崩からの奇跡の生還

第2回 生い立ち

第3回 バンクーバー島の旅

第4回 合気道修行時代

第5回 由美子さんとの出会い

第6回 家の改造大作戦

第7回(最終回)家の完成そして二人の結婚


第6回  目次

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1序:いよいよ今日は開通式

 水供給システムハイドロ・ラムが完成し、いよいよ今日は開通式。何の不安もなくコックをひねったが「出ない!」モーリスはパニックに陥った。 何が悪かったのか? 暫く考えて、うっかり元のバルブを開くのを忘れていたのに思い至る。急いでボンベに駆け戻り元を開き取って返す。今度は出た。
 容量800リットルもの中古の貯水用のタンクが1万円一寸で手に入った。送り込まれた水は、まずこの貯水槽に貯められる。家まで電気は来ているから、 貯められた水は必要に応じてポンプが働き家の各所に送り込まれる。これで一番大切な水の問題は解決した。
 しかしこの2ケ月の苦労も、家完成までのほんの序章に過ぎず、それに続く1年3ヶ月もの苦難の始まりである事を、モーリスも由美子さんもまだ分かっていなかった。


2.改造工事スタート

 水の確保という大事な問題は解決したので、いよいよ家本体の改造工事に入ることにした。2001年の11月の下旬、目を楽しませてくれた紅葉も終わり、 風に舞い散る木の葉が冬の到来が間近いことを教えてくれる。
さて、どこから手をつけようか。床が肉眼でもわかるほどに傾いている。試しにトイレの床に水平器をあててチェックしてみると1mに対して何と4cmも傾いている。
どうりで扉が開け閉め出来ないわけだ。
 床下に潜り込んでみると、床の根太(構造材)を支えるべき束が腐っている。床下をはいずり回り一通り調べてみると、 どうしても取り替えなくてはならない束が6本あるのが分かった。真っ先にこの束を取り替えなくてはならない。

床を支える束を代えるのがひと苦労だった
 モーリスはジャッキを3セット用意し、寝室と居間の間のコーナー部分にある、一番大事な束から始めた。

 3ケ所を選んで地面にコンクリートブロックを置き、その上にジャッキを載せる。 一ケ所に加重が集中しないようにバランスを見ながら、少しずつ少しずつ家を押し上げていく。一寸持ちげては水平器をあて床の水平をチェックしまた持ち上げる。
何時間かけてようやく、良い位置まで
                              写真:床を支える束を代えるのがひと苦労だった
来たかなと思った時にジャッキがはず
れて、ガクンもとの位置にもどってしまった。ガックリしたモーリスは地面にへたりこんでしまった。
家の重量に耐え切れずコンクリートブロックが地面にめり込んでしまったのであった。
 気を取り直して最初からやり直し。ブロックを強化し慎重に持ち上げていく。良い所まで行ったかなと思うと、またまた外れてしまう。 結局最初の束を入れ替えるのに丸二日かかってしまった。少しはコツが分かったが、それでも6本の束を取り替えるのに1週間かかった。

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3.床下のほふく前進

 「本当にそんなことをしなくてはいけないの。と何度もモーリスに確かめました。自分に試練を与えるために必要もない仕事をさせようとしているのではないかとさえ思いました」

 束を取り替えている間にモーリスは由美子さんに仕事を言いつけた。その仕事が本当に必要なものなのかどうかが、由美子さんにはわからない。
 床下の土の上にビニール・シートを敷き詰めるのがその仕事だ。木には湿気が大敵。床を支える束や根太が常に湿気た状態では腐りが進行し家が傾き、 やがては床が抜けてしまう。湿気が上がって来るのを抑えるためにビニール・シートを敷くのだという。

 モーリスに大工の経験があるのは経歴を聞いて知っているが、果たしてどの程度の腕や知識なのか? カナダと日本ではやり方も違うのではないか? という疑問を拭えない。
「これはどうしても必要なのだ」とモーリスに強く言われ由美子さんはしぶしぶ従った。
 笹が床下まで侵食し根を張り巡らせている。ビニール・シートを敷く前に、まずこれを刈り払らはなくてはならない。

作業中のモーリスと由美子さん
 スキーのゴーグルをつけ、マスクかけて由美子さんはおそるおそる床下に潜り込んだ。

26年間陽の当たらなかった床下は想像を絶する。 膝を立てられる高さのあるところはまだしも、寝室の下は地面に顔をつけ匍匐前進しないと進めない。

  蛇の抜け殻にぎょっとし、目の前に転がるネズミの死骸に悲鳴をあげる。 わけのわからない虫が目の前を歩き回る。由美子さんは虫が大嫌い、逃げ出したくなるのをぐっとこらえて鎌で笹を刈るが、この鎌がまたなまくらで切れない。

 作業は遅遅として進まない。傍らではモーリスが束を取り替えるのに悪戦苦闘している。それを見ていると投げ出すわけにも行かないが、 (何でこんな事までしなくてはいけないの)と涙があふれ出る。
 寝室の奥のほうは匍匐前進も出来ない高さ、精一杯腕を伸ばして必死に鎌を振る。一本の笹を切り取るのにも大変な労力を強いられる。 (本当に必要なことなのだろうか)と疑問を抱きながら床に潜って這いずり回る日々。一日が終わると疲れきり、がっくりして食欲もわかない。 笹を刈りビニール・シートを敷き詰めるのを、2週間近く掛かってなんとかやり遂げた。

 ビニール敷きの仕事の合間にもモーリスは次から次へと容赦なく色々な雑用を申し渡す。家作りを共にして初めて知る甘えや妥協を許さないモーリスの厳しい一面だった。



4.戦線の拡大

 改造が進むにつれ欲が出てくる。台所が狭すぎるので突き出す形で増築することにした。 1坪ほどの拡張ではあるが増築となると基礎、壁、床、屋根、内部の仕上げ電気配線と全ての工事が発生する。

 ベランダは南側だけだったが東側にも欲しい。そしていざ出来上がると、どうせなら屋根をかけ、窓をつけてサンルームにしたい。雨の日も洗濯物を干せるし・・・


パワーシャベルを操作し浄化槽を埋めるための穴を掘る 古い家だけに断熱対策が全くなされていず、冬は外の寒さが家の中にもしのび込む。由美子さんは佐賀県の出身、寒いのは苦手。暖かい家にして上げたい。

 床、天井、壁を剥がし断熱材を詰め込んでいくことにしたがこれも結構大変な作業だった。

 汲み取り式の便所を水洗式にしたい。風呂や台所から出る雑排水と一緒に処理する合併浄化槽がいる。幸い解体した家の不要になった浄化槽を貰い受けた。 重機を借りて地面を掘り浄化槽を埋め配管する。
                           写真:パワーシャベルを操作し浄化槽を埋めるための穴を掘る

 どんどん戦線が拡大していき、やるべき事が次から次へと増えていく。
 電気工事、配管工事、大工工事、内装工事・・・・全ての工事を自分たちでやる、一切人の手を借りずに出来るのも、 モーリスに大工の経験とメカニシャンとしての技術があるからこそである。

 

5.完成までの長い道

 やってもやっても仕事にきりがない。完成までまだまだ多くの困難な仕事が待ち受けていそうだ。 前途多難な日々を想像し、その労力と時間を思い、由美子さんは気が遠くなる思いだった。そして思わずにはいられなかった。 「これから先果たしてモーリスと一緒にやっていけるのだろうか」と?

その頃の心境を問う私の手紙に対して由美子さんから返事を貰った。

 (モーリスに)付いていけるのだろうか? そしてこれから先うまくやっていけるだろうか?・・そんな気持ちでした。一人で黙々と作業をして(私に説明しても事の大変さや重大さが理解できませんでしたから) 困難に当たっても弱音を吐かず何度も何度もトライしている仕事振りを見ていて、ほんとにあの辛抱強さには頭が下がりました。 自分によくここまで厳しくなれるものだと、弱い私はたのもしいと感心すると同時に、果たしてこんなに厳しい人に付いていけるのだろうかと不安にもなりました。 (やはり私にも妥協することを許してくれませんでしたので)。
 家の修復工事がまるで延々と続くかのように終わりが見えず、このまま終わりが来る前に、ストレスで二人の関係がダメになるのではないかと思うほどでした。





  

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