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モーリス 第4回 合気道修行時代

 バンクーバーで合気道の初段を得た
修行のため来日。ほんの3ヶ月の予定だったが・・・・・・

それが、かくも長い滞在になるとは

第1回 雪崩からの奇跡の生還

第2回 生い立ち

第3回 バンクーバー島の旅

第4回 合気道修行時代

第5回 由美子さんとの出会い

第6回 家の改造大作戦

第7回(最終回)家の完成そして二人の結婚


第4回  目次

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1序:兄雄一郎とのスキー

 モーリスと兄雄一郎はチェアリフトに並んで座り、テイネスキー場の山頂に向かった。札幌の郊外にある兄のホームゲレンデである。山頂に降り立ち見晴らすと札幌の街の向こうに石狩湾が広がっている。快晴、雪はファーニーの雪山を思い出させる粉雪、久しぶりのスキーにモーリスの気持ちは高揚する。しばらく景色を楽しんだ後、「さあいくぞ」と、兄はちらりとモーリスに眼で合図しスキーを走らせる。モーリスはそのすぐ後についた。
  スキー・バム時代のような訳にはいかないが、体に染み付いた感覚は残っている。兄に貸して貰ったスキーにもすぐに馴染み、足の裏から伝わってくる雪の感触を確かめながらすぐ後に続く。
 鮮やかなシュプールを描いて舞い降りていく兄の滑りはさすがに滑らか、無駄な減速をしない。同じコースを辿っているのにスピードについて行けない。これが65歳の男の滑りか!

新雪を滑る雄一郎
 久しぶりにモーリスから手紙が来たのは1997年11月の事である。

  「カナダ、アラスカの旅から帰った。合気道の道場に戻れて嬉しい。トレーニングは順調に行っている」。という文面に続いて、「北海道にいる友人に会いにいく。良い機会だから可能ならばあなたのお兄さん、雄一郎さんに会い一緒にスキーをしたい。

  私は常々彼の冒険精神に尊敬の念を抱いていた。もし会えれば嬉しい」
 モーリスと兄? 面白い、この二人なら話が合うに違いない。早速電話で事情を話すと兄は快く引き受けてくれた。
 12月の27日から1月の2日まで、モーリスは札幌にいる友人の家に泊まりテイネスキー場に通った。スキースクールはシーズンを通して最も忙しい時期であったが、その合間を縫って兄はモーリスにスキーを貸し、2〜3度一緒に滑ってくれた。

  凄いことをやった男だから、ごつい体の大男だと思い込んでいたので、意外に小柄でしかも優しく物静かなので、想像とのあまりの違いに驚いたという。
 ユックリ話も出来なかったが、モーリスはどうしても聞いておきたい事があった。エベレストを滑った時の事だ。映画「the man who skied down Everest」を見て長い間抱いていた疑問だった。「パラシュートを開いた時、思うようにはスピードが落ちなかった。それは何故ですか。そしてその時の気持ちはどうだったのですか?」
  兄は笑って答えてくれなかったという。しかし話の流れで兄はある計画モーリスに話した。

  「5年後の2003年、70歳の歳、エベレストを登頂しようと思いトレーニングしている」と。振り返ってみると、丁度兄がエベレストを目指してトレーニングを開始したばっかりの頃だった。
(兄が計画通りエベレスト登頂を果たしたことを、モーリスは後にニュースで知ることになる)
 日本に来て2年目の事であった。そろそろ今年あたりカナダに引き上げるのかな?と私は思っていたのだったが・・・

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2.日本でのかくも長き滞在

まさか日本にこんなに長くいることになるとは思わなかったね」 合気道を習うため、最初は5週間だけ、そして次は1年、そしてついには日本に住み着いて本格的な修行。結局足掛け8年も滞在することになろうとはモーリス自身も予想できなかった。 1996年、日本に来たその年の7月に初段に合格、翌年の8月に2段を獲得した。昇段試験は、師範の厳しい目が見守る中で、刀術、棒術、体術などのいくつかの種目で、同時に2人~3人を相手に闘わなくてはならない。体力、気力を振り絞り、それまで積み重ねてきた成果を出し切らなければ受からない。段が上になるに従い試験も厳しさを増す。2段から3段へは3年近く掛かり、1999年5月にようやく合格した。 3段は修行を始めた当初からの一つの目標だった。それだけに初段、2段を獲得した時と満足度が違い、強い達成感があった。3段ともなると道場を開いても恥ずかしくない段位である。

 日本にきてから弓道も始めた。1997年の中に初段、2段と昇段し、1998年に3段となる。そして現在は4段。

  乗馬も得意なモーリスは機会があれば流鏑馬(やぶさめ)にもチャレンジしたいという。
流鏑馬といえば鎌倉の八幡宮でのそれが有名、一度一緒に行こうと約束しているが、いまだに果たしていない。
  いつかモーリスが往時の衣装をまとい、馬を駆り的に向かってきりりと弓を振り絞る、颯爽たる勇士を見たいものだ。        写真:道場の仲間達 前列右から3人目がモーリス
                    
(モーリスはケビン・コスナーに似ていると書いたが、そういえば彼はロビン・フッドという映画に出ていた)。

 まさか日本にこんなに長くいることになるとは思わなかったね」 合気道を習うため、最初は5週間だけ、そして次は1年、そしてついには日本に住み着いて本格的な修行。結局足掛け8年も滞在することになろうとはモーリス自身も予想できなかった。
  1996年、日本に来たその年の7月に初段に合格、翌年の8月に2段を獲得した。昇段試験は、師範の厳しい目が見守る中で、刀術、棒術、体術などのいくつかの種目で、同時に2人~3人を相手に闘わなくてはならない。体力、気力を振り絞り、それまで積み重ねてきた成果を出し切らなければ受からない。段が上になるに従い試験も厳しさを増す。2段から3段へは3年近く掛かり、1999年5月にようやく合格した。


 修行を始めた当初から、3段は一つの目標だった。それだけに初段、2段を獲得した時と満足度が違い、強い達成感があった。3段ともなると道場を開いても恥ずかしくない段位である。
 

3.ケビンとの共同生活

 内弟子生活は3ヶ月で切り上げ、小さな家を借りた。道場主の斉藤先生が生徒達の宿舎用として、知り合いに頼んで25年前に建てて貰った家で、代々道場の生徒たちが住み続けてきた。モーリスはアイルランドから来た、その名もケビンと一緒に6年間ここで生活を共にする。
  6畳の畳の室が2部屋、1坪くらいの台所、コンクリートの上に直接浴槽を載せた簡素な風呂それに汲み取りの便所。隙間だらけで冬は寒く夏暑い、快適とはいえない。しかしなんといっても道場まで1分ほど歩いていける便利さが魅力であった。
 一寸した庭があり、そこでトマト、ピーマン、ナス、かぼちゃなどを植えて家庭菜園を楽しんだ。もっとも肝心の収穫期にモーリスもケビンも海外の旅に出ることが多く無駄にすることも多かったようだが。

 ケビンはイージーゴゥイングな(のんびりした)性格で、モーリスとも良く気が合い、一緒に住んでいて最高の相棒であった。モーリスより8歳ほど年下である。195cmの長身で、頭を下げないと戸をくぐれない。この家に慣れるまでよく頭をぶつけた。一緒に住み始めた頃モーリスは1級でケビンは初段、モーリスが初段に上がるとケビンは2段に、モーリスが3段になるとケビンは4段と、いつも一歩先にケビンが歩いている。
  合気道について技術的なことを話し合ったり、スランプに陥った時に、フランクに悩みを打ち明けられる丁度良い話し相手であった。

 余談になるが、ケビンは道場を離れた後、イギリスの大学に入学し、卒業後教師への道を歩んでいる。合気道は4段でやめたが、引き続きマーシャルアーツには興味を抱き続け、今現在は休暇を利用してテキサスのあるマーシャルアーツのトレーニングに参加しているという。


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4.海外への旅

 12年の間、モーリスは日本から全く動かなかった訳ではない。
道場の休みを利用してあちこちへ旅に出る。その都度モーリスはこまめに絵葉書を送ってくれる。

○タイから 
「今、この絵葉書の島(タイのプケット島)にいる。昨日からスキューバ・ダイビングの講習が始まった。 今日は太陽が照り素晴らしい天気、だけどこの3週間毎日雨だった。ここは旅行客が訪れる前は素晴らしく美しい島だったに違いない・・Merry Christmas」  

○ ニュージーランド
「ニュージーランドの旅を楽しんでいる。ホースバック・ライディング、スキューバ・ダイビング、そして明日は
セイリングの予定。素晴らしい天気が続き日焼けした」
                                         写真:タイのプケット島
○オーストラリア 
 「ここオーストラリアで楽しい日々を過ごしている。実に素晴らしい国だ。誰にでも自信をもって薦められる。 ・・・・・日本を離れたあとここに移り住むことを真剣に考えている。
  美しい国土、人々は皆フレンドリー」



○アラスカ
「今アラスカをカヤックで旅している。ここアラスカは野生の宝庫。多くの鯨、魚、熊そして鷲を見た。人に出会うことはまれで、 ここ1週間一艘のカヤックにも会っていない。もう2週間ここにいて、カナダに戻る4予定。いつか一緒にカナダを旅したいね」


  仕事に追われる私の毎日に、モーリスの絵はがきは、つかの間爽やかな涼風を送ってくれる。 そして思う。いつか一緒に旅をする日が来るのだろうかと。   

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