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エッセイ - 家を考える -
みうら・りょうざぶろう
1942年2月、青森県弘前市生まれ。北海道大学獣医学部卒業。実兄の三浦雄一郎とともに、広くスキービジネスに携わった後、1982年、カナダでログビルディングの技術を習得。帰国後、日本初のスクールを開校、ログハウス産業の基礎づくりに貢献。1990年、日本ログハウスフォーラムを結成。初代会長を務める。(株)フロンティアワールド社長。
著書に「ログハウスのつくり方」「ログハウス専科」がある。

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家づくりの舞台裏

電気屋がテレビを売る、叉は車屋が車を売る。そんなでき上がった商品を売るのに比べ、家を建てる仕事は格段にスパンが長い。最初のラフプランの段階から、設計、着工、完成まで、どんなに短くても9ヶ月から1年はかかる。土地探しからお付き合いすることも多い私の場合は、2年、3年がかりという例も珍しくはない。
触れあう機会の多さ、密度の濃さ、延べ時間の長さ、投入されるお金とエネルギー、どれをとっても一つの商品を売るのとは桁違いだ。そして、仕事、趣味やスポーツ、家族構成や経済的な状況、生活スタイル、さらには人生観や生き方そのもの。
その長い触れ合いの中で、オーナーのプライベートな面に、浅くではあるが触れていくことにもなる。だから、家づくりの仕事は人間に興味がないとできない仕事かもしれない。
私はこの17年間に、数多くの人たちと、そんな時間を共有してきたことになる。
さて、最終回の今回は、最近建てた方たちの中から、それぞれ建てる目的の違う3人の方を紹介し、建設の舞台裏をお見せしよう。
Kさんは自宅、Tさんは最初は別荘として使い、後に永住用として、Aさんは純粋な別荘として・・・。


千葉のK邸

Kさんがホームページで私の会社を知り、Eメールを通じてアプローチをしてきたのは、去年の5月14日のことだった。
建設予定地は千葉の酒々井町。土地の法規制、予算、家族構成、そしていろいろな希望事項を列記し、今のところP&B(ポストアンドビーム)を考えているが、キャンベル・シダーハウスにも興味があるなど、計画内容や自分の考えを過不足なく的確に表現している。これだけ最初に情報を与えてもらうと非常にありがたい。

Kさんは現在48歳。奥さんと4人の子供との6人家族(高2、高1の男の子、中2の女の子、そして2歳4ヶ月の男の子)で、某大手メーカーに勤めるサラリーマンである。できるだけ自分も建設に参加したいというのがKさんの希望だった。素人が手を出すのを好まない住宅メーカーが多いが、私はオーナー参加型は歓迎だ。
その気持ちはあっても、実行段階ではその大変さに恐れをなし、結局は全部任せてしまうケースが多いのだが、Kさんの話を聞く限り、実際にもかなりやれそうだという印象を抱いた。趣味でラジコンのヘリコプターづくりに本格的に取り組んでいるだけに器用そうだ。対象はまったく違うが、物を作る点においては共通するものがある。建築に関してもいろいろ研究している。そして何より熱意にあふれている。
すぐ近くに一軒家を借りて住んでいるのも強みだった。住まいと現場が離れていては、それだけで大変なハンデになるが、その点Kさんは理想的である。土、日、祝日の通常の休みに加えて、勤続20年の恩典で、希望すれば何日かまとめて休みも取れるので、追い込みに当たるゴールデンウィークに絡ませて20日ほど取れるという。


家はプランニング次第

土地の問題が意外に長引き、本格的にプランニングに入ったのは12月に入ってからだった。できる限り詳しく考えを引き出して、それを形にしていくのが設計者の役割である。オーナーの希望を満たすプランを作るには、やはり相当な経験と能力を必要とする。
プランニングを担当する、設計陣の要である箕浦君は、24年間、設計士としてありとあらゆる種類の設計を手がけてきた豊富な経験の持ち主。もちろん一般の住宅の設計も数えきれない。パース(建物の絵)を素早く手際よく描けるのも強みである。図面だけ見ても素人にはなかなか理解できないものだが、絵を見てもらうと、より具体的に理解できる。

玄関、リビング、寝室、浴室、トイレ、洗面所・・・。各部屋の構成、広さ、そしてそれぞれの部屋に希望する事項を、できる限り詳しく聞き出していく。建物の大枠から部分的な希望まで、思いつくままに希望を並べてもらい、それをプランに反映させていく。
4人の子供たちにはそれぞれ1部屋欲しい、ラジコンヘリのためのワークショップも欲しい・・・、できれば大きなロフトも・・・、と希望を入れてプランを進めてみると、結局は当初の予算をオーバーし、延べ床面積60坪を超える大きな家になった。

そして第1回のプランができる。それと一緒にパースも仕上げ、外観の感じを掴んでもらう。この段階ではまず、8〜9割方希望を満たすものがあればよい。
一度で完全に希望を満たす理想的なプランはできない。建てる本人も、最初からすべての希望は伝えきれない。
最初にできてきた図面やパースを眺めて考え、そこでの生活を頭の中でシミュレーションしてみて、初めて出てくるアイデアや新たな希望もある。そのための、言わばプランを熟成させていく時間が必要なのである。
それらの、新たに湧き出て来た希望を正確に読み取り、プラン上に的確に表現していくには、知識と経験、そして目には見えないが、感性的な要素までも含めた総合的な設計技術力が物をいう。設計者とオーナーの密接な意思の疎通も重要である。そうして何回か練り直していくに従い、しだいに限りなく望みに近い物に近づき、最終的なプランが決まる。
基本設計が終わり、実施設計に移ると、別の設計スタッフへと役割は移っていく。技術的な点や構造的なチェックを含め、詳細な図面を起こしていく。配置図、平面図、立面図、断面図、基礎伏図、建具表、展開図、給排水設備、電気配線図はもちろん、各種の伏図、建物のすべてを正確に表現していく。
プランニングの作業に並行して、私とカナダのエドとの間で頻繁にFAXが交わされる。多いときは1日に五〜六度やり取りし、10〜20枚の図面を送ることもある。製作に関するすべての問題がクリアされて初めて、カナダサイドの製作がスタートする。


K邸の建設

2月27日、ぎっしり詰められた41フィートコンテナ2本が到着。幸い敷地が広いので、すべての部材を建物の周囲に置くことができた。想像以上のボリュームに、Kさんは目を丸くし、太い重量感あふれる丸太を見ては目を輝かせている。
翌日の28日から建て方開始。Kさんも、使える時間はすべてこの建設の手伝いに充てた。まず建て方から始まり、大工の手伝い。内部の仕上げに入ると、塗装、照明器具の取り付け、内壁のクロス仕上げと大忙し。家が大きいだけに、それぞれの作業量はもちろん、平日でも、会社帰りの疲れた身で現場の後片付け。大変なエネルギーである。何しろ凝り性で研究熱心、インターネットを駆使して情報をかき集め、あちこち走り回ってはいろいろな面白いものを探してくる。

6月半ば、まだまだ内部は未完成であるが、何とか住める状態になり、Kさん一家は引っ越すことにした。まず引っ越してしまい、その後、そので生活しながらボチボチ仕上げていこうという考えだ。
内部の壁面の多くはまだ下地のモルタルを塗っただけの状態。この上に珪藻土を塗る。子供たちの部屋の壁のクロス貼りは、各々自分でやるという方針だ。
7月19日に私が訪ねたとき、Kさんは梅雨のつかの間の晴天を利用して、駐車場の部屋にポリカーボネートの波板を張っていた。高い所は苦手らしく、慎重に作業してはいたが、トントントンと釘をたたく音は、リズミカルでプロのそれである。仕事をしているときは真剣な面持ちながらも、心底楽しそうな顔をしている。

完成までにはまだしばらくかかりそうだが、生活には支障ないところまで仕上げているから、あせる必要はない。楽しみながら進めればいいのだ。家がまだ完成していないのに、最近また、「庭に離れを造りたい」などと言いだした。当分Kさんの楽しみの種は尽きない。


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